名車解体新書 第4回:玉虫という色——1976年の青を、2026年に売るということ
カワサキがZ900RSの2027年モデルに、1976年の玉虫ブルーを下敷きにした新色を与えた。名の次は色。機械ではなく、機械が背負った時間に値段が付く時代を読む。
この記事の注目ポイント
- カワサキはZ900RSの2027年モデル(2026年7月1日発表・8月1日発売)で、1976年Z900(A4)の玉虫ブルーを下敷きにした新色「キャンディトーングリーニッシュブルー」を150万7000円のスタンダードに設定した。ラインの色は当時と変えており、完全な復刻ではない。
- ヤマハの70周年記念YZF-Rシリーズの白地に赤とスピードブロックは、1964年に250ccで世界を獲ったRD56の配色を、1999年のYZF-R7(OW-02)が赤いスピードブロックとして再構成したものに遡る。R1は264万円・200台限定で1月30日発売。
- 2027年モデルのZ900RSは、スタンダード150万7000円・Black Ball Edition 152万9000円・CAFE 154万円・SE 183万7000円の4本立て。ほぼ同じ骨格に、装備と色で30万円を超える価格差がついている。
前回はノートンが新型フラッグシップに与えた「Manx R」の名を巡って、名の重みを書いた。今回は色の話をする。カワサキは2026年7月1日にZ900RSシリーズの2027年モデルを発表し、8月1日に発売した。スタンダードに与えられた新色の名は「キャンディトーングリーニッシュブルー」、価格は150万7000円である。往年の玉虫ブルー——1976年のZ900(A4)にあった、見る角度で緑にも青にも転ぶあの塗りを下敷きにしている。ただし完全な複製ではない。ラインの色は当時と変えてあると報じられている。名を借りるのと、色を借りるのと、どちらが重いのだろうか。この一台は、その問いを値札とともに差し出してきた。
歴史を振り返れば、1976年という年はZの物語の折り返しにあたる。1972年に900の4気筒が世界の順位を書き換えてから4年、カワサキの大排気量車はもはや挑戦者ではなく、王座を守る側に回っていた。この文脈で見ると、時代が求めたのは速さの証明よりも、所有していることの華やぎだったと私は考えている。玉虫と呼ばれた塗りは、その要求への回答である。単色でありながら単色に見えない。光の角度で表情を変える塗装は、停まっている機械にも見せ場を与えた。走らせていない時間のほうが圧倒的に長い乗り物にとって、これは思いのほか本質的な発明だったのだ。スペック表には一行も現れない価値が、確かにそこにあった。もう一点、忘れてはならないことがある。当時のカタログ色は、いまのように一年で入れ替わる消耗品ではなかった。買った一台の色は、その人がその機械と過ごす十年をまるごと決めてしまう。だから塗りには、流行を追う軽さではなく、飽きられない重さが求められたのだ。
キャンディと呼ばれる塗りは、銀の下地の上に透明な色を薄く重ねて深さを作る手法である。層を重ねるだけ工数は増え、直しも効きにくい。つまりこの種の色は、最初から手間の高い色なのだ。この直しの効かなさは、いま当時の車体を追う者たちをも悩ませ続けているはずである。玉虫という和名が誰の口から出たのかを私は特定できないが、その呼び名が定着したこと自体が、当時の買い手があの塗りをどう眺めていたかを物語っている。虫の翅である。金属でも宝石でもなく、生きものの背に喩えた。工業製品に付ける渾名としては、ずいぶん親密な言い方ではないだろうか。
色が記憶を運ぶという点では、今年のヤマハも興味深い。創立70周年を記念したYZF-Rシリーズの特別仕様が1月15日に発表され、YZF-R1とYZF-R9は1月30日から各200台限定で売り出された。R1は264万円。白地に赤、そしてスピードブロックである。あの図柄の出どころを辿ると、1964年に250ccで世界を獲ったRD56の白地に赤ラインへ行き着き、それを赤いスピードブロックとして再構成したのが1999年のYZF-R7、型式名OW-02だったと説明されている。つまりヤマハが今年売っているのは、勝った記憶の外皮なのだ。カワサキが1976年の華やぎを売り、ヤマハが1964年と1999年の勝利を売る。どちらも機械そのものではなく、機械が背負った時間に値段を付けている。
こうした復刻色を懐古趣味の商売と切って捨てるのはたやすい。だが私はそこまで冷たくなれない。むしろカワサキがラインの色を当時と変えたことに、ある種の誠実さを感じている。完全な複製は、記憶を標本にしてしまうからだ。少し違えておくことで、あの色は資料ではなく、今も生きている色として扱われる。付け加えれば、2027年モデルのZ900RSは、スタンダードの150万7000円から、Black Ball Editionの152万9000円、CAFEの154万円、SEの183万7000円まで四つ並ぶ。ほぼ同じ骨格に、装備と色で30万円を超える幅がついている。買い手は色に払っているのか、記憶に払っているのか。おそらくは、その両方に払っているのだろう。もう一つ言い添えておく。この種の商売が成立するのは、記憶を共有する層が生きているうちだけである。1976年の店頭を覚えている人は確実に減っていく。そのなかで玉虫という言葉は、いずれ実物を見たことのない世代へ引き継がれていくだろう。その時この色は、記憶の再販ではなく伝承になる。最新の電子制御の中身は私にはさっぱり分からないが、色が何を背負ってきたかなら、いくらでも語れる。
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