ギア・ラボ 第4回:ブラダーは6回で終わる——エアバッグの値札に書いていない数字
エアバッグベストの値札には本体価格しか書いていない。インフレーターは89.99ポンド、ブラダーは6回で寿命——買った後に始まる数字を、実測とフィットの視点から読む。
この記事の注目ポイント
- アルパインスターズTech-Air 5 Plasmaは699.99ポンド・1530gで先代比25%以上軽く、6センサーで最短20ミリ秒で膨張。バッテリーはUSB-C充電で最大30時間もつ。
- 作動後のインフレーターは自宅交換で89.99ポンドだが、ブラダーは最大6回の膨張までと規定され交換は299.99ポンド。本体価格の4割超が消耗品として後から発生する。
- Plasmaはバックプロテクター無しのジャケット下に着られる薄さと引き換えに、Tech-Air 7/10よりカバー範囲がやや狭い。薄いベストほど体型でフィットがずれるため、冬インナーと夏メッシュの両方で試着する必要がある。
- 二輪用のTech-Air MX(700ドル/600ユーロ)は7月のラ・チュイレDHワールドカップで自転車競技の選手がジャージの下に着用。3月にはAutolivがRSタイチと組んだT-SABEを東京モーターサイクルショーで公開している。
前回は、CEのAAAという等級と、48という珍しいサイズ表記の話をしました。ラベルに書いてある数字をどう読むか、という回です。今回はその裏返しで、ラベルに書いていない数字の話をしたい。エアバッグベストなんですよね。今年2月にMotorcycle Newsが出したアルパインスターズTech-Air 5 Plasmaの記事を読んでいて、アキラが一番長く目を止めたのはスペック表ではありませんでした。価格は699.99ポンド、重量は1530グラムで先代より25%以上軽い。6個のセンサー(3軸加速度計と3軸ジャイロ)が2004年から積み上げてきたクラッシュのデータベースを参照して、最短20ミリ秒で膨らむ。バッテリーはUSB-C充電で最大30時間。ここまでは、順当に良くなったな、と思う。
目が止まったのはその先です。作動後のインフレーター(ガス発生器)は自宅で自分で交換できて89.99ポンド。ただしブラダー(膨らむ袋)が無傷であることが条件で、そのブラダー自体は最大6回の膨張までと決められていて、交換は299.99ポンド。つまり6回作動させたら、本体価格の4割を超える部品代がもう一度かかる。これは欠陥ではないんです。火薬でガスを起こして袋を膨らませる装備である以上、消耗品を抱えるのは当たり前で、むしろ「6回」と明記して自分で交換させてくれるのは誠実な設計だと思う。ただ、店頭のプライスカードに載っているのは699.99ポンドだけです。エアバッグは、買った瞬間に維持費が始まるギアなんだ、という前提を先に共有してほしい。言い換えると、6回作動させた時点で、購入時にもう一台分に近い金額を払っている計算になる。もちろん6回も転ぶ人は多くないし、そこまで使ったなら十分に元は取れている。それでも、店頭で「これ、消耗品はいくらですか」と聞ける人がどれだけいるかと考えると、書いておく価値はあると思う。
もう一つ、ラベルからは読めないのがカバー範囲のトレードオフです。同じ記事は、Plasmaが薄く柔らかくなってバックプロテクターを内蔵しないジャケットの下にも着られる設計である一方、同社のTech-Air 7や10と比べるとカバー範囲はやや狭い、と書いています。薄いということは、体に沿うということ。体に沿うということは、体の形が変われば当たる位置も変わるということなんですよね。だからアキラは、冬用のインナーを着た状態と、夏のメッシュ一枚の状態の両方で試着することを勧めます。胸の膨らみがある体、肩幅の広い体、腹まわりに厚みのある体——それぞれで、同じMサイズでもベストの裾が落ち着く位置が違う。ギアに性別は関係ない。フィットするかどうかだけ、が正解です。カタログのカバー範囲図は、あなたの体の上では必ず少しずれる。実測の話をもう一つしておくと、1530グラムはベストとしてはかなり軽いほうで、真夏に着て重さで嫌になる数字ではないんですよね。問題は重さではなく厚みと張りです。膨らむ袋を抱えている以上、生地は普通のプロテクターベストより硬い。腕を上げたとき、肩の付け根が突っ張らないか。前傾姿勢を作ったとき、裾が腹の前でめくれ上がらないか。見るのはそこが正解。
この分野が面白いのは、二輪の外へ出ていき始めたことです。Bikerumorが8月13日に報じたところでは、7月にラ・チュイレで開かれたマウンテンバイクのダウンヒル・ワールドカップで、Specialized Gravity RacingのJordan Williams、Santa Cruz Burgtec、Mondraker Factory Racingの選手たちが、二輪用のTech-Air MXベスト(700ドル/600ユーロ・胸と背中と肩をカバー・MX Race/Enduro/Rallyの3モード)をジャージの下に着て走っていました。ジャージの下に隠れるサイズまで来た、ということです。自転車のダウンヒルは二輪より速度域は低いけれど、落ち方はよく似ている。そこで実戦投入できるということは、誤作動の閾値がかなり詰められたということでもあるんだ。3月にはAutolivがRSタイチと組んで、T-SABEというベストを東京モーターサイクルショー(3月27〜29日)で出しました。クルマのエアバッグを作ってきた会社が、初めて自前でウェアラブルを一から作り上げた製品です。数が出れば、単価も消耗品の値段も下がるはずだと思う。アキラの結論はこうです。エアバッグはもう「買うかどうか」を悩む装備ではなく、「6回分の予算まで含めて維持できるか」を先に計算する装備になった。そのうえで、必ず着て、腕を上げて、前傾姿勢を作ってから決めてほしい。
参照・引用リンク
この記事の執筆時に引用・参照した公開情報です。
- Motorcycle News:Under the skin of the Alpinestars Tech-Air 5 Plasma airbag(2026年2月19日)
- Bikerumor:As We Spy Bike Airbag Prototypes, Alpinestars Races World Cup DH in Real Tech-Air MX Vest(2026年8月13日)
- Autoliv:Autoliv and RS Taichi Partner to Advance Motorcycle Rider Protection with an Airbag Vest(2026年3月24日)





