わたしのバイク道 第5回:バトンがアプリになった——78か国3,500人のリレーの、続きが毎日渡されている
78か国3,500人が実物のバトンをつないだWRWRが、2026年はアプリで再始動。1か月で7,000回超のパスが成立し、8月10日にはスタージスで13,000マイルの横断ライドがゴールしています。
この記事の注目ポイント
- Women Riders World Relay(WRWR)が2026年1月1日にデジタル版として再始動。無料アプリでデジタルのバトンを実際に会って手渡す仕組みで、最初の1か月で7,000回を超えるバトンパスが成立し、年内100万人の参加を目標に掲げている。
- 2019年2月に英国ジョン・オ・グローツを出発した最初のリレーは、78か国・3,500人以上の女性ライダーが6万マイル以上をつなぎ、約1年後にロンドンで完結した。創設者はヘイリー・ベル、現CEOはリザ・ミラー。
- 8月10日、スタージス・モーターサイクル博物館&殿堂の25周年イベント「パールズ・ジャム」に、リザ・ミラーとウェンディ・クロケットが率いた13,000マイル超の米大陸横断ライドが到着。同日、ベッシー・ストリングフィールドとメアリー・マギーの殿堂入りが顕彰された。
前回は、殿堂に名前が刻まれるまでに114年かかった人の話を書きました。名前が残ることは、やっぱり大切だと思います。ただ、あれを書き終えたあとにずっと考えていたのは、いま走っている人たちのことなんですよ。記録は過去に向かって伸びていくけれど、仲間は今日この日にしか作れませんからね。それでいま追いかけているのが、ウィメン・ライダーズ・ワールド・リレー(WRWR)という取り組みです。2019年2月に英国の最北端ジョン・オ・グローツを出発して、78か国・3,500人以上の女性ライダーが6万マイル以上をつなぎ、約1年かけてロンドンにゴールしたリレーですね。デジタルではなく、実物のバトンを、会って、手渡しで送っていったんです。
そのWRWRが2026年1月1日、今度はデジタルとして再び走り出しました。無料のアプリを入れると、デジタルのバトンを受け取って、次の人へ渡せる。ただし渡すのは画面の中だけの操作ではなくて、実際に会って渡すのが基本になっています。最初の1か月で7,000回を超えるバトンパスが成立したそうですよ。アンバサダーはもう100か国以上に広がっていて、年内に100万人という目標を掲げています。創設者のヘイリー・ベルさんは「誰もが入れる道具を作りたかった。女性ライダーはずっと声を求めてきた。これがその声を使うための道具です」と話しています。CEOのリザ・ミラーさんの言葉も、わたしはとても好きでした。「すべての女性ライダーをつなぎたいというのは、スローガンではありません。実務的な使命です」と。
アプリには、走ることだけでなく、整備やメカニックの技能を伸ばすチャレンジのシリーズ、地元のイベントを自分で作って人を集める機能、参加や活動に応じたポイント、業界からの割引といったものが入っています。ここからはわたしの意見なんですけれど、女性ライダーが感じている「一人で走っている感じ」の正体は、情報が足りないことではないと思うんですよ。走る場所も、ギアの選び方も、調べれば今はいくらでも出てきます。足りないのは、初対面の人に声をかけていい理由のほうなんですよね。バトンを渡すという口実は、そこにぴたりとはまります。渡す側にも受け取る側にも、会う理由が最初から用意されている。誰だって最初の一歩は怖いですから、その怖さを一段だけ下げてくれる仕掛けは、ばかにできないと思います。整備のチャレンジが入っているのも、わたしはうれしかったですね。バイク屋さんで工具を持たせてもらえなかった、という話をこれまで何度聞いたかわかりません。自分でオイルの量を見る、自分でチェーンを張る。その一つひとつが、「このバイクはわたしのものだ」という感覚をつくっていくんですよ。
そして8月10日、サウスダコタ州のスタージス・モーターサイクル博物館&殿堂で、博物館の25周年にあたるパールズ・ジャムというイベントが開かれました。ここに、リザ・ミラーさんとウェンディ・クロケットさんが率いた13,000マイル超のアメリカ大陸横断ライドがゴールしています。GPSの走行軌跡が、地図の上に「WRWR 2026」という文字を描くルートだったそうです。フロリダから走ってきたシャンテル・ウィリアムズさんの「シスターフッド・ライド」も、ベッシー・ストリングフィールドさんに敬意を表してここに合流しました。その前後にも女性が主役の日が並んでいて、8月9日にはフライング・ピストン・ベネフィットという朝食つきのチャリティ・アートオークションが開かれています。レナ・フェアレスさん、ジョアン・ボートルズさん、J・シアさん、ブリトニー・オルセンさん、クリス・ソマー・シモンズさんといった女性ビルダーが名を連ね、収益は子ども向けのオール・キッズ・バイクと、退役軍人のPTSD回復を支えるモーターサイクル・ミッションズへ渡ります。11日のバイカー・ベルズ・ウィメンズ・デイでは、ブラックヒルズのガイドツーリングのあとにバイクショーがあって、いちばんきれいな車両といちばん汚れた車両の両方に賞が出るそうですよ。走ってきた人がちゃんと褒められる。いい賞だと思いませんか。そして同じ日、同じ場所で、ベッシー・ストリングフィールドさんとメアリー・マギーさんの殿堂入りが顕彰されました。前回書いた話と今回書いた話が、同じ会場の同じ一日で重なっていたわけですね。名前が石に刻まれることと、いまバトンが手から手へ渡っていくことは、地続きなんだと思います。リレーは2027年1月まで続きますから、気になった人はアプリを覗いてみてほしいです。
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