欧州ライダー通信 第5回:全体は減り、二輪だけ増えた——英国の384という数字
英国の2025年暫定統計で全体の死者は3%減ったのに、二輪の死者は384人・13%増で二年連続の悪化。数字を突きつけられた英国のライダー団体が選んだのは、反発ではなく免許制度の改革案だった。
この記事の注目ポイント
- 英国運輸省の2025年暫定統計では、道路全体の死者は1,556人(前年比3%減)に対し二輪の死者は384人で13%増。全死者の25%を占め、二輪の増加は二年連続。
- 同省の二輪ファクトシートでは、2021〜2025年平均で毎週7人が死亡・104人が重傷。死亡事故の70%は交通量が全体の38%しかない地方部の道路で起きている。
- 全国二輪協議会(NMC)は業界団体と共同で、段階的ステップアップへの動機づけ・二段階試験の見直し・CBTの水準向上・電動L区分のルール整備という免許改革案を政府に提出した。
- FEMA事務局長ヴィム・タールは「二輪政策は規制だけに閉じるべきではなく、本物のセーフシステムは二輪を正当な移動手段として認めるものでなければならない」と述べている。
前回はブリュッセルの話を書いた。77団体が17項目の要求を並べ、その紙束を持って議会のある街を50キロ走った、という回だ。あれは欧州全体の設計図の話だった。今回は設計図ではなく、実際に出てきた数字の話をしたい。英国運輸省が公表した2025年の道路事故暫定統計である。全体の死者は1,556人で、前年より3%減った。重傷を含む死傷者(KSI)は29,911人で4%増えている。全体としては「ほとんど進歩がない」と評された一年だ。その中で、二輪の死者は384人、前年比13%増だった。全死者に占める割合は25%。四輪も歩行者も自転車も含めた総数が減る中で、二輪だけが増えている。しかも運輸省自身が、これは二年連続の増加だと書いている。
数字を扱うときは慎重でありたい。運輸省は同じ文書に「年ごとの変動が大きいため、これが持続的な傾向なのか一時的な揺れなのかを判断するのは時期尚早だ」とも書いている。これは逃げではなく、統計を扱う者として正しい態度だと私は思う。ただ、周辺の数字を並べると別の顔が見えてくる。同省の二輪ファクトシートによれば、2021年から2025年の平均で毎週7人のライダーが亡くなり、104人が重傷を負っている。死亡事故の70%は地方部の道路で起きているが、そこを走る交通量は全体の38%にすぎない。走行10億マイルあたりの死者は128人。高速道路上の死亡は全体の3%にすぎない。都市の渋滞をすり抜ける姿ばかりが政策論議の題材になるが、実際に人が死んでいるのは、見通しの悪いカントリーロードのほうなのだ。もうひとつ、二車両が絡む事故のうち37%は二輪と乗用車の衝突だという数字もある。つまり死亡事故の相当部分は、ライダーだけを教育しても届かない場所で起きている。二輪のKSI被害者の92%が男性という数字も含めて、この統計は「誰が、どこで、どういう相手と死んでいるのか」をかなり具体的に語っているのに、政策の議論はしばしば「二輪は危ない」という一行に丸められてしまう。
興味深いのは、この数字に対する英国のライダー団体の動き方だ。全国二輪協議会(NMC)は、業界団体やディーラー協会と組んで、四つの領域で政府に働きかけている。責任あるライディングと道路へのアクセス、自動運転車の中での二輪の扱い、道路安全政策、そして免許制度の改革だ。自動運転については、すり抜けや交差点の場面で二輪が明示的に想定されているかを政府に確かめさせている。免許については、段階的なステップアップに動機づけを与える仕組み、二段階試験の見直し、初心者講習(CBT)の水準向上、電動L区分車両の実態に合わせたルール整備を共同提案として出した。「Ride Right」というキャンペーンもある。合法的に走る権利を守りながら、違法・迷惑な走行には自分たちで線を引く、という組み立てだ。数字が悪化したとき、真っ先に自分たちの側から改革案を出す。これは欧州のライダー運動が長い時間をかけて身につけた作法だと思う。
FEMAのヴィム・タール事務局長は、この一連の動きについてこう述べている。「二輪政策は規制だけに閉じるべきではない。本物のセーフシステム・アプローチは、二輪を正当な移動手段として認めるものでなければならない」。これは弁解ではなく戦略だと、私は読んだ。384という数字を突きつけられたとき、行政にとっていちばん簡単な政策は「乗せないこと」である。速度を落とさせ、区間を閉じ、免許を難しくする。数字は確かに下がるだろう。だが減ったのは事故ではなく移動そのものであり、誰も安全になっていない。社会との関係でいえば、二輪は交通の中でつねに少数派だ。少数派が数字で殴られたとき、感情で押し返しても勝てない。用意しておくべきなのは「規制しないでくれ」という言葉ではなく、規制の代わりに何を差し出すのかという具体案のほうだ。ロンドンの団体が免許制度の改革案まで書いて持っていったのは、そのためじゃないか。数字を否定するのではなく、数字の使われ方に責任を持つ。384人が亡くなったという事実は、どう解釈しても軽くならない。軽くしてはいけない。だからこそ、その384を「二輪を減らす根拠」にするのか「二輪の走る場所を直す根拠」にするのかは、私たちの側が先に言葉を持っているかどうかで決まる。日本で同じ議論が始まる日に備えて、この作法だけは輸入しておく価値があると思う。
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