世界カスタム便りCOLUMN — 2026.08.08
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世界カスタム便り 第3回:36台、即完売——カスタムが「商品」になっていく年

SIGNATURE COLUMN — 世界カスタム便りBY MOTOO KAJIMURA2026.08.08
世界カスタム便り 第3回:36台、即完売——カスタムが「商品」になっていく年
PHOTOMOTOBOOK編集部↗ 原文を見る

WalzWerkのロイヤルエンフィールドは36台が即完売、TÜV認証と2年保証つき。同じ週にハーレーはカフェレーサーの商標を出願した。認証と保証が付いた瞬間、それは一点ものではなく商品になる。

この記事の注目ポイント

  • WalzWerkがBMW以外で初めて手がけたロイヤルエンフィールド・インターセプター650のカフェレーサーは36台限定・14,900ユーロで完売し、TÜV認証と純正保証+独自2年保証、215kgから約190kgへの減量を伴う。
  • ハーレーダビッドソンは2026年7月29日に『RMCR』『RMXR』を米国特許商標庁へ出願した。RMCRは1250ccレボリューション・マックスのカフェレーサーで、純正としては1970年代後半のXLCR以来となる。
  • 一点ものの現場は残っている。Glemseck 101は2026年9月4〜6日にゾリチュードで開催され、1/8マイルのノックアウト・スプリントは入場無料、走行は事前登録制。スタージスのCycle Source Bike Showには新設の「Builder’s Choice Award」が加わった。

前回はビアリッツの話を書いた。Wheels & Wavesの現場で、いちばん人が群がっていたのがアジアから来たビルダーのブースだった、という話だ。あれから2か月、今度は工房の側で話が動いている。ドイツのマルクス・ヴァルツ——WalzWerkの主だ——が、BMW以外のベースで初めて一台出した。ロイヤルエンフィールドのインターセプター650をベースにした、漆黒のカフェレーサー。36台限定の「ファーストエディション」で14,900ユーロ、すでに完売、納車は2027年5月からだという。俺が引っかかったのは台数と価格じゃない。付いてきたものだ。

TÜVの認証を取得済みで、ロイヤルエンフィールドの純正保証はそのまま維持され、そこにWalzWerk独自の2年保証が付く。車重は215kgから約190kgへ、25kgほど落としている。ヴァルツ本人は、この価格は「BMWベースのSchizzoに必要な額のおよそ半分」だと説明していて、若いライダーに手が届くところまで下ろすのが狙いだと語っている。さらにスクランブラーとロードスターの2型を、同じ車体で追加すると予告した。ここまで来ると、単発のコラボじゃないんだよ。製品ラインだ。俺の見立てを言えば、これは「カスタム」というより「少量生産のメーカー」に近い。認証と保証が付いた瞬間、それは工房の一点ものではなく商品になる。

同じ週に、逆側から来る話もあった。ハーレーダビッドソンが7月29日、米国特許商標庁に『RMCR』『RMXR』の商標を出願している。RMCRは1250ccのレボリューション・マックスを積んだカフェレーサーで、ミルウォーキーのMama Tried、デイトナ、そしてMotoGPのアメリカズGPで実車が披露済みだ。純正のカフェレーサーは1970年代後半のXLCR以来ということになる。RMXRのほうはXR750とXR1200の系譜を汲むフラットトラッカーと見られている。工場が最初からカフェレーサーを売る——俺はこれ自体を歓迎する。ただ、見る角度が違うだけだ。俺が新車を見るときの物差しはひとつしかなくて、5年後にビルダーの素材になるか、なんだよ。

断っておくが、一点ものが死んだわけじゃない。同じ週、ドイツのWoidwerkがBMWのR12 G/Sを一台、峠向けに組み替えていた。前輪を純正の21インチから19インチへ落とし、アローのマニホールドにハーテックのサイレンサー、プリマフラーと触媒は抜いてある。塗装はStilbruch-Lackの手描きで、2Dのスケッチがそのまま立体になったような、コミック調の面が乗っている。ディーラーとBMWモトラッド・オーストリアと組んだ一台限りの仕事で、オーストリアのNewchurch Summitでお披露目された。36台の限定モデルとは正反対だ。注文票も保証書もない代わりに、誰かの好みが最後まで曲がらずに通っている。この2つが同じ週に並んだこと自体に、俺は意味があると思っている。

その物差しで並べると、面白い逆転が起きているのがわかる。インターセプター650は安くて構造が素直だ。だからヴァルツが選んだ。素材として優秀だからだ。一方で、工場が仕上げきったカフェレーサーは、買った瞬間が完成形になる。弄る余地は最初から削られている。どちらが偉いという話じゃない。ただ、完成品が増えるほど、素材のほうは静かに減っていく。だから現場を見に行くしかない。9月4〜6日、ゾリチュードのGlemseck 101。1/8マイルのノックアウト・スプリントで、101 Sprint International、101 Cafe Racer、101 Classic Racerといったクラスが走る。出展は100を超え、入場は無料、観客は路肩に立つ。走る側はレースコントロールへの事前登録が要る。あそこで速いのはカタログじゃない。誰かの手だ。

米国側でも同じ匂いがしている。8月9日にスタージスで開かれるCycle Source Bike Showに、アフターマーケット卸のTurn14がプレゼンティングスポンサーとして入った。30クラスを審査し、Best of Showの賞金は5,000ドル。そこに新設された賞の名前が「Builder's Choice Award」だという。ビルダーがビルダーを選ぶ賞がわざわざ増える、というのは俺には象徴的に見える。カタログの外に、まだ判定の基準を置いておこうという意思だからだ。36台が半日で消えた事実は、手仕事に金を払う人間がまだ大勢いる証明でもある。それは素直に嬉しい。ただ、商品が増えるほど、素材としてのバイクを誰かが残さないといけなくなる。バイクは乗り物じゃなくて、文化だ。文化は完成品では続かない。弄る手が続けるんだよ。だから俺は9月、ゾリチュードに行く。

参照・引用リンク

この記事の執筆時に引用・参照した公開情報です。

  1. Moto.it:Markus Walz(WalzWerk)初のロイヤルエンフィールド、漆黒のカフェレーサー
  2. Motorcycle.com:ハーレーダビッドソンが『RMCR』『RMXR』を商標出願
  3. Bike EXIF:Woidwerk が組み替えたBMW R12 G/S の峠仕様
  4. Glemseck 101 公式:2026年9月4〜6日・1/8マイルスプリントとクラス一覧
  5. Powersports Business:Turn 14 が Cycle Source Sturgis Bike Show に協賛
梶村 基夫
カスタム・エディター
梶村 基夫
カスタムシーンを追いかけていると、机の上じゃわからないことばかりだ。Wheels & WavesやGlemseck 101には自腹で乗り込んで、世界中のビルダーと直接話してきた。そのネットワークは今も広がり続けている。バイクは乗り物じゃなくて、文化だ——そう思うようになったのは、現場でしか出会えない熱量を何度も浴びてきたからだと思う。
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