わたしのバイク道COLUMN — 2026.08.03
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わたしのバイク道 第3回:ぶつかった、罰が出た——女子選手権が「展示」をやめた夏

SIGNATURE COLUMN — わたしのバイク道BY HARUKO YASUDA2026.08.03
わたしのバイク道 第3回:ぶつかった、罰が出た——女子選手権が「展示」をやめた夏
PHOTOMOTOBOOK編集部↗ 原文を見る

7月のドニントンで、女子サーキットレース世界選手権が2レース連続の接触とペナルティに揺れた。用意された舞台から、奪い合う舞台へ。3シーズン目に起きた変化を安田春子が読む。

この記事の注目ポイント

  • WorldWCR第5戦ドニントンでは、レース1でエレラがネイラとの接触にダブルロングラップペナルティを受けながら3.7秒差で優勝し、レース2ではラモスとの最終ラップ接触に「Irresponsible Riding」として6秒加算が科され、10番手発進のネイラが繰り上げ優勝した。
  • 選手権はエレラ226点、ネイラ182点の44点差。残るのは10月16〜18日のヘレス最終戦の最大50点のみで、タイトルは最終戦まで持ち越された。
  • WorldWCRは2024年発足の3シーズン目。全車ヤマハYZF-R7のワンメイク、年6戦、12カ国24人という小さな枠組みで、ペナルティが争われるほど競り合う段階に入ったこと自体が競技としての成熟を示している。

前回は「軽い」という売り文句の話を書きました。今回はその真逆、ぶつかり合いの話です。7月10日から12日にかけて、イギリスのドニントンパークで、女子サーキットレース世界選手権「WorldWCR」の第5戦が行われました。結果だけ並べれば、土曜のレース1はマリア・エレラ、日曜のレース2はビアトリス・ネイラの勝ち。でもこの週末に語られたのは順位ではなく、接触とペナルティのほうだったんですよ。

何が起きたのか、順を追って書きますね。レース1は1周目、ターン6のブレーキングで先頭のエレラが外側にふくらみ、ネイラとハンドル同士が当たりました。ネイラはグラベルへ飛び出してリタイア。エレラにはダブルロングラップペナルティが出ましたが、6周目と7周目でそれを消化してなお、3.7秒差で勝ち切ってしまった。2位はパオラ・ラモス、3位はタイのムクラダ・サラプエックです。翌日のレース2では、今度は最終ラップでエレラがラモスと接触し、ラモスを草地へ押し出してしまう。FIM審査委員会はこれを「Irresponsible Riding(無責任な走行)」と判断して6秒加算を科し、エレラを2位に降格させました。繰り上がって優勝したのは、10番手スタートから追い上げていたネイラ。押し出されたラモスは、まさにその周に1分38秒908というコースレコードを出していた人です(以上、ワールドスーパーバイク公式の発表による事実関係です)。

レースのあと、三人ともきちんと言葉を残しています。ネイラは「マリアのあの態度でチャンピオンを取るのはフェアじゃない。危険な行為だった」。エレラは「あれはレースの一部。彼女はわたしの後ろにいて見えなかったし、レーシングインシデントであるべきだ」。ラモスは「思っていた終わり方ではなかったけれど、レースではこういうことは起きる」。読みながら、わたしは正直、少しほっとしたところがあったんです。

ここからは意見です。この選手権が始まったのは2024年で、まだ3シーズン目。初代女王がアナ・カラスコ、昨年がエレラでした。全員が同じヤマハYZF-R7に乗るワンメイクで、今年のエントリーは12カ国24人、シーズンはたったの6戦です。始まったころに話題になったのは「女性が走る舞台ができた」という、その一点でした。用意された場所を、用意されたとおりに走る。もちろん悪いことではないのですが、どこか展示物を眺めるような空気もあったんですよね。ドニントンの2日間で語られたのは、舞台があることではなく、その舞台を誰が獲るのかでした。ペナルティが出るというのは、裁く価値のある勝負として扱われている、ということでもあります。

もうひとつ、わたしが嬉しかったことも書かせてください。レース1の表彰台、その3段目に立ったのはタイのムクラダ・サラプエックでした。今年のエントリーは12カ国24人。スペイン勢が強いのは確かですが、表彰台にアジアの選手が普通に混じっている。全員が同じヤマハYZF-R7に乗るワンメイクですから、そこで出た差はお金でも国籍でもなく、走りの差なんですよ。条件をそろえると、こんなにはっきり見えるものなんですね。この形式が最終的な正解かどうかは議論があると思いますけれど、いま始めるための設計としては、よくできていると思います。

ただ、引っかかったこともあります。レース2に勝ったネイラが、勝った直後に「レース1のあと、SNSにはわたしに向けたコメントがたくさんありました」と話している。ぶつけられて転んだ側が、なぜか説明を求められて、言葉を選ばされる。こういうことは男性のレースでも起きますが、選手の絶対数が少ない世界で起きると、一人が背負う量がまるで違ってくるんですよね。24人しかいない選手権では、一度の炎上がその人のシーズンごと焼いてしまいかねません。ここは、見ているわたしたちの側が少し慎重になれる部分だと思います。誰だって、24分の1として見られながら走るのはしんどいですから。

選手権のポイントはエレラ226点、ネイラ182点。差は44点で、残っているのは10月16日から18日のヘレス最終戦の最大50点だけ。つまり、まだ何も決まっていません。あの頃を思い出すと、「女性はバイクに向いていない」の理由としてよく挙げられたのが、激しい競争に向いていない、でした。ドニントンの2日間は、その前提を静かに壊したのだと思います。バイクは乗りたい人みんなのもので、レースだって同じ。誰だって、本気なら怒るし、ぶつかるし、言い返す。10月のヘレスは、そういう選手権として見てほしいですね。

参照・引用リンク

この記事の執筆時に引用・参照した公開情報です。

  1. WorldSBK公式:BIG DRAMA: Herrera takes WorldWCR Race 1 victory despite penalty for opening lap clash with Neila
  2. WorldSBK公式:TITLE RACE CONTINUES: Neila victorious from P10 after Herrera penalised for last-lap Ramos contact
  3. WorldSBK公式:Barbs exchanged in WorldWCR as Herrera, Neila and Ramos react to a highly controversial pair of races in the UK
  4. FIM:2026 WorldWCR entry list confirmed — 24 riders set for the new season
  5. Wikipedia:2026 FIM Women's Circuit Racing World Championship(カレンダー・ポイント)
安田 春子
ダイバーシティ担当
安田 春子
バイクブームのころ、免許を取って原付で走り出したときの解放感は今でも覚えている。「女性はバイクに向いていない」なんて言葉を何度聞かされたかわからない。だからこそ書き続けている。バイクは誰のものでもなく、乗りたい人全員のものだ。
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