EVは買いか 第5回:バッテリー74個に、電動二輪は2台——大手町の工事現場が決める値段
東京都とホンダ、カナモトが大手町の建設現場で交換式バッテリーの実証を始めた。投入されるパックは74個に対し、電動二輪は2台。買う側の損得は、この比率のほうで決まってくる。
この記事の注目ポイント
- 東京都・ホンダ・カナモトが大手町Torch Tower建設現場で行う実証(2026年8月〜2027年3月)は、Honda Mobile Power Pack e: 74個とPower Pod e: 4台を、電動二輪2台・自走式台車2台・高圧洗浄機/投光器6台の計10台で共用する。
- Honda Mobile Power Pack e: は定格50.26V・26.1Ah/1314Wh・質量10.2kg・連続放電出力2.5kWで、メーカー希望小売価格は1個108,900円(税込)。EM1 e: はこのパックを1個積む構成である。
- 交換式バッテリーの実用性は車両性能ではなく、現場に何個パックが在庫されているかで決まる。今回の実証が示す比率は機械1台あたり7.4個。
- 同じMPP e: はコマツの電動マイクロショベルPC01E-1に2022年3月から採用されている。二輪以外の需要が積み上がってはじめて、規格は量産と交換網を維持できる。
前回はバッテリーを借りる話をした。ガチャコが全国へ広げたレンタルの話で、要点は「電動二輪でいちばん高く、いちばん確実に劣化する部品を、自分で持たなくてよくなった」ということだった。今回は、その借り手が二輪だけではなくなる話をする。八月二十日、ホンダが東京都および株式会社カナモトとの実証事業を発表した。場所は東京都千代田区大手町二丁目、Torch Towerの建設現場である。開発・設計・施工にあたる三菱地所、三菱地所設計、清水建設が協力する。期間は二〇二六年八月から二〇二七年三月まで。東京都の「令和八年度規格型バッテリー活用機械導入促進事業」の枠組みで行われるもので、建設現場をまるごと交換式バッテリーで動かせるかを試す実験だ。
数字を見よう。投入されるのは「Honda Mobile Power Pack e:」が74個、蓄電機の「Honda Power Pod e:」が4台。これに対して使われる機械は、電動二輪のGYRO CANOPY e: が2台、自走式台車が計2台、高圧洗浄機と投光器・投光機が計6台。機械は合わせて十台である。機械十台に対して、バッテリー74個。一台あたり7.4個という比率だ。ここが今回いちばん重要な数字だと考えている。交換式というのは、要するに充電待ちの時間をバッテリーの在庫で埋める仕組みだ。在庫が薄ければ、交換式は単に「取り外せるだけの固定電池」に落ちる。逆に言えば、この7.4という数字は「交換式を成立させるには、これくらい要る」という現場側の見積もりでもある。感情ではなく数字で言えば、交換式の便利さは車両の性能ではなく、周囲に何個パックが転がっているかで決まる。比較のために整理しておく。固定電池の車両であれば、バッテリーは車両の台数と同じだけあればいい。比率は1.0だ。今回の現場はその七倍以上のパックを抱えて回している。差の6.4個分が、充電待ちをゼロにするために払われているコストである。そしてこの差を誰が負担するのかが、交換式が普及するかどうかの実質的な争点になる。工事現場ではレンタル事業者が、街中ではステーション事業者が、その在庫を抱えることになるからだ。
金額に直すとどうなるか。MPP e: の仕様は定格電圧50.26V、定格容量26.1Ah/1314Wh、質量10.2キログラム、連続放電出力2.5キロワット。ホンダのメーカー希望小売価格は一個108,900円(税込)である。74個なら、単純計算で八百万円を超えるバッテリーが一つの現場に置かれることになる。ここで二輪の側を見てほしい。EM1 e: が積むのは、このパック一個だ。二〇二三年十二月のガチャコの発表では、東京都在住で補助金を適用した場合のEM1 e: の車体価格を97,200円(税込)としていた。当時の制度に基づく数字ではあるが、パック単体の希望小売価格のほうが車体より高い、という逆転がすでに起きていたことになる。技術的には、これは電池が高いというより、二輪単体では量が出ないという話だ。同じパックはコマツの電動マイクロショベルPC01E-1にも二〇二二年三月から採用されている。建機、洗浄機、投光器。二輪以外の需要が積み上がってはじめて、この規格は量産と交換網を維持できる。
では買う側は何を見ればいいのか。私の結論はこうだ。電動二輪を選ぶとき、車体のスペック表より先に「そのバッテリー規格が、二輪以外の何に採用されているか」を調べたほうがいい。五年後にパックを買い替えられるか、交換ステーションが自分の生活圏に残っているか。それを決めるのは二輪の販売台数ではなく、規格全体の出荷量だからだ。事実と意見は分けておきたい。事実は、東京都・ホンダ・カナモトが二〇二七年三月まで実証を行い、74個のパックを十台の機械で回すということ。結果はまだ出ていないし、この実験がうまくいかない可能性も当然ある。意見のほうは、成否にかかわらず「二輪のバッテリーが二輪だけのものではなくなる」流れは変わらないだろう、ということだ。もう一点、実証の設計そのものにも注目しておきたい。今回対象になっているのは電動二輪だけではなく、自走式台車、高圧洗浄機、投光器といった、必ずしも動き回る必要のない機械も含まれている。据え置きに近い機械へわざわざ着脱式の電池を積む理由は一つで、同じ在庫を共有するためだ。共用先が多いほど、機械一台あたりに必要な在庫は薄くて済む。二輪単独では絶対に成立しない設計思想が、ここには入っている。EVは買いか。現時点で言えるのは、車体ではなく規格の裾野を買え、ということになる。
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