世界カスタム便り 創刊:ビアリッツの砂浜で確信した「バイクは文化だ」
カスタム・エディター梶村基夫の連載が始まる。Wheels & WavesからGlemseck 101まで、世界のカスタムシーンを現場で浴びてきた男が、机の上ではわからない熱を届ける。
この記事の注目ポイント
- カスタム文化は完成車だけでなく、工房、作業工程、土地の道、ビルダー同士の交流まで含む現場の文化だ。
- Wheels & Wavesのような複合イベントでは、EV、手仕事、アートが同じ場に並び、次の潮流が可視化される。
はじめまして、の代わりに、まず断っておきたいことがある。俺は評論家じゃない。工房の油の匂いと、イベント会場の排気とビールの匂いの中で話を聞いてきた人間だ。この連載を「世界カスタム便り」という名前にした理由は単純で、これが「便り」だからだ。現場から出す手紙。速報でも網羅でもなく、俺がその場で見て、触って、ビルダー本人と話したことだけを書く。バイクは乗り物じゃなくて、文化だ——そう思うようになったのは、現場でしか出会えない熱量を何度も浴びてきたからだと思う。その熱を、なるべく冷めないうちに届けたい。
創刊号だから、まず俺の原点の話をする。フランス・ビアリッツ。大西洋に面したサーフタウンで毎年6月に開かれるWheels & Wavesは、サーフィンとカスタムバイクとアートが混ざり合う、世界でも他に類のない祭りだ。初めて自腹で乗り込んだとき、まず驚いたのは会場に並ぶバイクじゃなかった。会場までの道すがら、欧州各国のナンバーを付けたカスタム車が自走で集まってくる、その光景だ。彼らのバイクは完璧じゃない。塗装の下に前の色が透けているし、溶接の跡も隠していない。でも、それがいい。ビルダーやオーナーと話すと、機械の話は3割で、あとは暮らしの話になる。仕事のこと、家族のこと、何を削って何を残すか。カスタムってのは結局、その人の生き方が車体に出る話なんだよ。砂浜に夕日が落ちて、誰かのバイクのエンジンが遠くで掛かる。あの瞬間に、俺はこの仕事を一生やると決めた。
シーンの潮流の話もしておく。ネオクラシックの波が一巡して、いま現場で面白いのは二つの流れだ。ひとつはEVベースのカスタム。賛否があるのは知ってるし、俺も最初は懐疑的だった。だがドイツのGlemseck 101——使われなくなった飛行場で1/8マイルのスプリントをやる、あの武骨なイベントで、電動マシンが内燃機を食う瞬間を目の当たりにして考えが変わった。速さは文化を黙らせる。音がなくても、速いものは速い。そこから先の「らしさ」をどう作るかが、いまビルダーたちの腕の見せ所になっている。もうひとつはアジアのビルダーの台頭だ。タイやインドネシアのショップが、SNS経由で欧米から直接注文を受ける時代になった。横浜のホットロッドカスタムショーが長年世界中のビルダーの目標であり続けているのと同じで、カスタム文化に中心はない。現場と現場が直接つながって、互いに熱を移し合う。この地殻変動は、メーカーの新型発表とは別の川を流れているが、最後は同じ海に流れ込むと俺は見ている。そしてその合流を最初に感じ取るのは、いつだって現場だ。だから俺は現場に行く。
工房の話もしておきたい。イベントの華やかさの裏で、俺が一番好きなのは平日のガレージだ。バルセロナの裏通りの小さなショップで、若いビルダーが一台のタンクを三度作り直しているのを見たことがある。理由を聞いたら「二度目までは俺の都合で作った。三度目でやっとオーナーの人生に合った」と言うんだよ。この感覚は取材のメールじゃ絶対に出てこない。現場に行けばわかる、としか言いようがない。工具の並べ方、失敗作の置き場所、常連が勝手にコーヒーを淹れる距離感。工房ってのは技術の場所である前に、人が集まる理由そのものなんだ。日本の旧車ショップにも、欧州のカフェレーサー専門店にも、同じ空気が流れてる。国境をまたいでも変わらないその空気こそが、俺の言う「文化」の正体だと思ってる。
この連載では、イベントの現場、ビルダーの工房、ストリートで拾った話を書いていく。頻度は週イチと言いたいところだが、約束できるのは一つだけだ。伝聞では書かない。俺が見て、触って、話した相手のことだけを書く。だから多少ペースが乱れても勘弁してくれ。その分、封筒の中身は濃くする。当面の予定も書いておくと、9月はドイツのGlemseck 101に飛ぶ。年末は横浜のホットロッドカスタムショーで日本のビルダーの新作を浴びて、合間にアジアのショップ巡りを挟むつもりだ。行った先で誰に会って何を見たか、その都度この場所に手紙を出す。読み終わる頃に、あんたが自分のバイクをちょっと違う目で眺めてくれたら、この便りは役目を果たしたことになる。バイクは乗り物じゃなくて、文化だ。それを確かめる旅に、あんたも付き合ってくれよ。
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