泥まみれ最高 第5回:オハイオの粘土で6連覇——それでも世界ランキングに名前がない男
8月10日、トリスタン・ハートがオハイオでAMAハードエンデューロ6連覇を決めた。全7戦6勝。ところが同じ男の名前は、世界選手権のランキング上位に見当たらない。同じ競技に立つ、二つの山の話だ。
この記事の注目ポイント
- トリスタン・ハート(KTM)が8月10日、米オハイオ州ウェルズビルのホロー・ポイント・ハードエンデューロを3時間40分47秒で制し、最終戦を1戦残してAMAナショナル・ハードエンデューロ選手権プロクラス6連覇を決めた。全7戦中6勝。
- 同じハートは6月21日のFIMハードエンデューロ世界選手権第3戦シルバーキングス(米アイダホ州ケロッグ)で2位に入っているが、第3戦終了時点のランキング上位5人(レッテンビヒラー88点、M・ブライトモア75点、カバクチェフ68点、A・ブライトモア49点、ロマン48点)に名前はない。
- 2026年の世界選手権は全8戦。8月20〜22日にスウェーデンのオルサ・グレンクリットで初の北欧開催となるフォルツァ・オルサ、9月4〜6日にイタリアのアベトーネと続く。米国側は8月28〜30日のレッドブル・テネシー・ノックアウトが最終戦。
8月10日、オハイオ州ウェルズビルのコール・ホロー・レースウェイ。トリスタン・ハートが3時間40分47秒で走り切って、AMAナショナル・ハードエンデューロ選手権プロクラスの6連覇を決めた。しかも最終戦を1戦残しての決定だ。全7戦で6勝、数字の話はこれで終わりでいい。2位はコディ・ウェブで5分33秒差、3位のライダー・ルブロンドが7分32秒差、4位のブランデン・ペトリーまでが12分圏内で、5位のカウェロ・ハディはもう30分後ろにいた。コースは13.5マイルを2周、プロとAクラスの制限時間は5時間。土曜の朝に雨が降って、オハイオの粘土がぬるっと生き返った。日曜は乾いていたらしいけど、あの土は一度水を吸ったら簡単には戻らないんだよな。ハートは土曜のプロローグでもトップを取って、日曜は最初の1時間で前に出たらそのまま。マシンはKTM 300 XCだ。2位のウェブはマシントラブルでクーラントを足しながら走っていたらしいのに、それでも5分半差まで持ってきている。あの人はほんと壊れないよな。
面白かったのはハート自身のコメントだ。序盤はトップに立つのが必ずしも得じゃない、ラインができていく途中だったから2番手にいられて逆に良かった、と言っている。実際、2周目はだいたい1時間速かったそうだ。ハードエンデューロってのは、走りながら路面が完成していく競技なんだよな。滑るだけの岩の斜面が、10人が失敗して踏み固めた30分後には登れる坂になる。ここから先はオレの見方だけど、この競技で強い奴っていうのは、単に体力があるとかテクニックがあるとかじゃなくて、「今この瞬間の路面が何分後にどうなるか」を読めてる奴だ。ハートは自分でこのコースを「世界で5本の指に入る難しさ」と言っていた。ビッグ・ウォーターフォール、12ゲージ・ヒル、20ゲージ・ヒル、フルメタルジャケット。セクション名を並べただけでもう泥まみれじゃん。オレも週末は草レースに出てるから体感で言えるんだけど、同じセクションを午前と午後で走ると別の競技になる。午前中は誰も登れなかった壁が、午後には行列ができてる。逆に、朝は普通に通れたガレ場が昼には掘れて底が抜けている。5時間の制限時間ってのは、その変化を全部飲み込むための長さなんだと思う。
で、ここからが今回オレが書きたかった話だ。同じトリスタン・ハートは、6月21日にアイダホ州ケロッグで開かれたFIMハードエンデューロ世界選手権第3戦シルバーキングスに出て、2位に入っている。勝ったのはミッチ・ブライトモアで、ハートは5分55秒差。3位はマヌエル・レッテンビヒラーだ。ところが、その第3戦を終えた時点の世界ランキングを見るとこうなる。レッテンビヒラー88点、ブライトモア75点、テオドール・カバクチェフ68点、アシュトン・ブライトモア49点、マリオ・ロマン48点。ハートの名前がない。世界選手権のラウンドで表彰台に乗った男が、そのシリーズのランキングには乗らない。全8戦を全部は追いかけていないからだ、というのがオレの理解だ。アメリカの選手権と世界選手権が、同じ競技なのに別々の山として立っている。ちなみにハートはカナダ人だ。カナダ人がアメリカのシリーズを6年連続で取って、出場した世界選手権のラウンドでは表彰台に乗る。それでも年間ランキングには載らない。こういうことは、ロードレースの世界ではまず起きないよな。
これを不健全だと言う人もいると思う。世界一が一つに決まらない競技なんてどうなんだ、と。でもオレはそうは思わない。ハードエンデューロは会場そのものが競技の一部で、オハイオの粘土とアイダホの岩とスウェーデンの森は、要求してくる能力がまるで違う。全部を回りきれる選手はごく一握りで、地元の山でだけは無敵という奴が世界のあちこちにいる。その散らばり方こそがこの競技の体力なんだと思う。ちょうど前回書いたスウェーデンのフォルツァ・オルサが、8月20日から22日にかけてオルサ・グレンクリットで走られている。世界選手権として初めての北欧開催だ。次は9月4〜6日のイタリア、アベトーネ。アメリカ側は8月28〜30日のレッドブル・テネシー・ノックアウトで最終戦。タイトルはもう決まっているのに、あの最終戦だけは誰も流さない。それがハードエンデューロという競技の性格だと思う。どっちの山も見るしかないだろ。泥まみれ最高だぜ。
参照・引用リンク
この記事の執筆時に引用・参照した公開情報です。
- Motor Sports NewsWire:Trystan Hart and FMF KTM Factory Racing Clinch Sixth U.S. Hard Enduro Title
- Cycle News:2026 AMA National Hard Enduro Round 7 Results
- KTM:Lettenbichler Maintains Hard Enduro World Championship Lead as Hart Claims Silver Kings Podium
- FIM Hard Enduro World Championship:Standings & Results 2026



