世界カスタム便り 第2回:ビアリッツの夏——アジアのビルダーが主役になった日
今年のWheels & Wavesで俺が一番シャッターを切ったのは、欧州の名門でも米国の大御所でもなく、アジアから来たビルダーたちのバイクだった。現場で見た地殻変動を、熱いうちに書く。
この記事の注目ポイント
- Wheels & Waves 2026は、バイク、サーフ、アートを横断し、カスタム文化が国境を越えて交わる場になった。
- SNSで制作過程が共有される時代は、ビルダーの所在地よりも仕事の質と土地固有の発想を前面に押し出す。
創刊号で予告したとおり、この夏の欧州の話をする。6月のフランス・ビアリッツ、Wheels & Waves。何年も通ってきた祭りだが、今年ははっきりと空気が違った。会場でいちばん人だかりができていたのは、欧州の名門ショップでも米国の大御所でもなく、アジアから乗り込んできたビルダーたちのブースだったんだ。編集部の談義でもちらっと話したが、あの現場の熱は一言では伝えきれない。だから今回は、便りの名にふさわしく、ビアリッツで見たものを順番に書く。
まず、何が展示されていたかだ。タイのショップが持ち込んだカフェレーサーは、小排気量ベースなのに佇まいが完全に「本物」だった。溶接のビード、アルミの叩き出し、塗装の艶。細部の仕事が、歴史ある欧州のショップと並べてもまったく見劣りしない。インドネシア勢のスクランブラーは、向こうの路面事情から生まれた独自の足回りの解釈が面白くて、周りのビルダーたちが屈み込んで覗き込んでいた。日本からの出展もあって、相変わらずの偏執的な作り込みで存在感を放っていた。国籍の話をしたいんじゃない。どの車両にも、その土地の道と暮らしから生まれた必然が form になって宿っていた。それが観客に伝わるから、人が集まるんだ。
なぜアジア勢がここまで来たのか。現場で本人たちと話して、答えは明快だった。SNSだ。10年前なら、バンコクの若いビルダーの仕事を欧州の目利きが知る方法はほぼなかった。今は工房の作業の一部始終が海を越えて流れていき、良い仕事は国境と関係なく発見される。ある若いビルダーは「注文の半分以上が海外から来る」と言っていた。彼らにとってビアリッツへの出展は夢の舞台であると同時に、既にある顧客への挨拶回りでもあるんだ。創刊号で「カスタム文化に中心はない」と書いたが、今年のビアリッツはその証明だった。文化の中心が移動したんじゃない。中心という概念そのものが溶けて、現場と現場が直接つながる網になった。俺はこの変化を、心の底から歓迎してる。
会場の空気も、便りらしくもう少し写しておくぜ。ビアリッツの夕方、浜に近い広場ではエンジンを切ったバイクがずらりと並んで、潮風と日焼け止めとレザーの匂いが混ざる。誰かがアコースティックギターを爪弾き始めると、国籍のわからない集団が自然に輪になって、身振り手振りと画面の翻訳で互いのバイクを褒め合う。夜はスプリントの話題で持ちきりだ。今年も旧いツインから電動まで雑多な顔ぶれが走って、排気音の後にモーターの風切り音が続く瞬間、観客がどよめいた。あの音の落差ごと楽しんでしまうのが、この祭りの懐の深さなんだよな。屋台のガレット片手に、昼間タンクの叩き出しを見せてくれたタイの若いビルダーとまた会った。「日本の雑誌で君の国のカスタム特集を読んで育った」と言われて、言葉に詰まったよ。俺たちが浴びてきた熱は、ちゃんと海を渡って、別の誰かの燃料になってた。文化ってのはこうやって回るんだと、砂の上で妙に納得した夜だった。
一つだけ、考え込まされた場面も書いておく。ある欧州の老舗ビルダーが、アジア勢のブースを眺めながらぽつりと言ったんだ。「俺たちが50年かけて作った文法を、彼らは5年で学ぶ。次は彼らが文法を作る番だな」と。悔しさ半分、敬意半分の顔だった。カスタムの世界は職人の世界で、技術の伝承には時間がかかるとされてきた。その常識が、映像と共有の時代に書き換わりつつある。だが忘れちゃいけないのは、画面越しに学べるのは形までで、削る手の感覚と失敗の痛みだけは自分の工房でしか手に入らないってことだ。アジア勢の仕事が本物だったのは、彼らがちゃんと手を油まみれにしてきたからだよ。さて、次の便りは9月、ドイツのGlemseck 101から出す予定だ。飛行場のスプリントで今年は何が走るのか。バイクは乗り物じゃなくて、文化だ。その最前線を、また現場から報せるぜ。
追伸。ビアリッツで撮ってきた写真は、整理がついたら何らかの形で見せられるようにしたい。ファインダー越しに見た砂とクロームの光は、文章だけじゃ半分も伝わらないからな。手紙に写真を同封する——便りってのは、本来そういうもんだろ。それまで、あんたの街のガレージにも顔を出しておいてくれ。文化は、待ってても届かない。会いに行くもんだぜ。工具箱は今日も、次の旅の荷物の一番下に入ってる。
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