今週のレース読みどころ 第5回:25連勝を止めたのは0.165秒——同じバイク、同じタイヤで
MotoGPはアラゴンまで三週間の空白だ。その間に見返すべきは、ブレガの25連勝がドニントンで同僚レクオナに0.165秒差で止められた一戦。新しいタイヤが、レースの組み立てごと変えている。
この記事の注目ポイント
- ニコロ・ブレガの25連勝は、2026年7月11日のドニントンパーク・レース1で、同じアルバイト.itドゥカティのイケル・レクオナに0.165秒差で止められた。レクオナは141戦目での初優勝だった。
- ピレリが2026年に投入した新標準リア(スーパーソフトSCX/エクストラソフトSCQ)で、ドニントンのレース1は前年より28.661秒、1周平均1.246秒速くなった。タイヤを終盤まで温存する戦い方の優位が薄れている。
- 連勝は止まったが選手権の構図は変わらない。第8戦ドニントン終了時点でブレガ491点、レクオナ358点、モンテッラ211点、アレックス・ロウズ182点、サム・ロウズ177点。
- 2026年8月中旬は二輪世界選手権の端境期で、MotoGPは8月28〜30日のアラゴン、WorldSBKは9月4〜6日のマニクールまで開催がない。
シルバーストンが終わって、カレンダーが三週間ぽっかり空いた。次のMotoGPはアラゴン、8月28日から30日だ。前回はそのシルバーストンの答え合わせをしたが、今週は走っているレースがない。この空白を「何もない期間」だと思っているなら、もったいない話だ。俺が今週の読みどころに挙げるのは、七月のドニントンパークで起きたことだ。25連勝が、0.165秒で終わった日。あれをもう一度、頭から見てみろ。夏休みの三週間で、レースの見方が一段変わるはずだ。走っていない時期に何を見ておくかで、九月からの解像度が決まる。
ニコロ・ブレガ。2026年のスーパーバイクを開幕から21連勝、2025年終盤からの通算で25連勝。誰も勝てなかった。それを7月11日、ドニントンのレース1で止めたのが、同じアルバイト.it レーシング・ドゥカティのチームメイト、イケル・レクオナだ。23周を走って0.165秒差。表彰台どころか、1位から6位までをドゥカティが埋めた——レクオナ、ブレガ、モンテッラ、サム・ロウズ、ブライドウェル、バルダサーリの順だ。レクオナにとっては141戦目にして初優勝だった。世界選手権のどのクラスでも、一度も勝ったことがなかった男が、140戦待ったことになる。ロカテッリの154戦に次ぐ、二番目に長い順番待ちだ。ついでに言えば、この一戦でブレガのポール・トゥ・ウィン24連続も途切れている。つまり止まったのは連勝記録だけじゃない。予選から決勝の最終ラップまで誰も前に出られない、というあの状態そのものが終わったんだ。
なぜ止まったのか。現場で見てきた身としては、まずタイヤを疑う。ピレリは2026年から標準リアを入れ替えた。エクストラソフトのSCQと、スーパーソフトのSCX。決勝はSC1フロントとSCXリアの組み合わせが基本で、ブレガのポールラップはSCQだった。そしてドニントンのレース1は、前年の同じレースより28.661秒速い。23周で割れば1周あたり1.246秒だ。ここから先は俺の見立てだが、この1.246秒がブレガの武器を溶かしたと思っている。あの男の強さは、序盤にタイヤを使わず終盤に一気に出す組み立てにあった。ピットの中では「残す」ことに全部を賭けるチームだ。だが全員のタイヤが最後まで垂れないなら、その貯金には利子がつかない。コーナーの入口から脱出まで、23周ずっと全開の殴り合いになる。実際、勝敗を分けたのはセクター4——メルボルン・ヘアピンからゴダーズにかけての区間で、レクオナは1周あたり0.093秒を稼いでいた。ドニントンのあそこは、下って減速して、低速の切り返しから最後のヘアピンを回ってメインストレートに放り出される場所だ。ブレーキングで内側に飛び込まれる形になるから、前を走る側は毎周、進入で殴られ続ける。それを23周しのぎ切って、最後にラインを閉め切ったというのが今回のレクオナだ。0.165秒なんてのは、最終コーナーの立ち上がり一発ぶんでしかない。逆に言えば、その一発を23周ぶん積み上げないと届かない差でもある。
もっとも、記録簿はそう甘くない。ブレガは翌日の日曜、二つのレースを両方勝っている。第8戦ドニントンを終えた時点で491点、レクオナ358点、3位モンテッラ211点、4位アレックス・ロウズ182点、5位サム・ロウズ177点。選手権の構図は何ひとつ変わっていない。そのスーパーバイクもここから夏休みで、次はマニクール、9月4日から6日だ。だから8月に先に動くのはMotoGPのアラゴンのほうになる。アラゴンで俺が見るのも同じ一点だ。路面温度が上がってタイヤの垂れが小さくなる週末に、誰が終盤まで持たせる走りをして、誰が最初から全部出すのか。ドニントンで起きたことは、道具が変わればレースの組み立てごと変わるという話であって、スーパーバイクだけの現象じゃない。移籍の駆け引きだの契約の裏側だのは俺にはさっぱり分からんが、コースの上で起きたことなら読める。この夏に覚えておくべきなのは「連勝が途切れた日」じゃない。141戦目まで勝てなかった男が、チャンピオンと同じバイク、同じタイヤで、最終コーナーを閉め切ったという事実のほうだ。道具が全員に揃った瞬間に何が起きるか。それが見たければ、ドニントンのレース1を最初から再生してみろ。三週間もあれば、23周ぶん全部を追いかける時間くらいはあるだろう。
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