カルチャー探訪 Vol.5:トロフィーはギターだった——見本市のど真ん中に、誰かの主観が置かれる
AIMExpoが2027年3月のオーランド開催でThe Builders Cupを新設する。賞を出すのはスタージス・バッファロー・チップ。ギター型トロフィーが業界見本市の真ん中に置かれる意味を考えた。
この記事の注目ポイント
- AIMExpoは2027年3月3〜5日のオーランド開催で The Builders Cup Fueled by Drag Specialties を新設し、専用スペース The Builders Club にカスタムビルダーの車両を展示する。S&S Cycleも参加する。
- スタージス・バッファロー・チップが Spirit of the Chip Award を授与する。同賞は2024年2月のAIMExpo(ラスベガス)にも置かれ、そのときは社長ロッド“ウッディ”ウッドラフ本人が選び、ギター型トロフィーとスタージス・ラリーの一週間パス2枚が贈られた。
- 選出されるビルダー、競技のフォーマット、審査の方法はいずれも未発表で、数か月以内に公表される予定。
- MIC副社長シナモン・カーンズはカスタムビルダーを「市場に届く前の先行指標」と表現し、ルマン・コーポレーション会長兼CEOポール・ラングレーは適切な製品と支援があればビルダーが業界全体を鼓舞すると述べた。
前回このコラムで、SEMAがカスタムバイクの部門を新設した話を書いた。四輪アフターマーケットの巨大見本市が、審査席をひとつ増やしたという話。その原稿を出してすぐ、今度は北米の二輪業界そのものの見本市が同じ方向へ動いたの。AIMExpoが、2027年3月3〜5日にフロリダ州オーランドで開く回に、The Builders Cup Fueled by Drag Specialtiesを新設すると発表した。会場にはThe Builders Clubという専用スペースが置かれて、そこにビルダーのバイクが並ぶ。メーカー、ディストリビューター、ディーラー、メディア——業界側の人たちが歩いている床の、その真ん中に。Drag Specialtiesが冠スポンサーで、S&S Cycleもかなり本腰の関わり方をするらしい。これまでショーの外側にあったものが、業界の内側へ正面から招かれた、という構図だよね。
業界の見本市って、これまでビルダーにとってはあまり関係のない場所だったと思う。部品を仕入れる相手と商談をする場所であって、自分の作った一台を置いて見せる床ではなかった。だからカスタムの発表はいつも、ショーはショー、見本市は見本市、ときれいに分かれていたの。そこにThe Builders Clubという名前の区画ができて、ディーラーやメディアの動線の上に車両が並ぶことになる。誰の目に触れるかが変わるというのは、作る側にとって地味に大きい変化だよね。
わたしがいちばん惹かれたのは、賞のほう。スタージス・バッファロー・チップがSpirit of the Chip Awardを出す。バイク文化の核にある自由と個性の精神を、いちばん体現した一台に贈られる賞なんだって。この賞、AIMExpoに来るのは初めてじゃない。2024年2月、ラスベガスで開かれた回にも置かれていて、そのときの審査はとてもわかりやすかった。バッファロー・チップの社長ロッド“ウッディ”ウッドラフが、自分をいちばん高鳴らせた一台を選ぶ。それだけ。トロフィーはギターの形をしていて、副賞はスタージス・ラリーの一週間パスが二枚だった。審査基準を言葉にする代わりに、ラリーへの招待状を渡している感じ。Vol.3で書いたスタージスの十三のショーと同じで、あそこは承認をどこかからもらってくる場所じゃないんだよね。
一方で、今回の発表に添えられた業界側のコメントは、まったく別の言語で書かれている。MIC(モーターサイクル・インダストリー・カウンシル)の副社長シナモン・カーンズは、カスタムビルダーは新しいスタイルや技術が市場に届くより前の先行指標として機能してきた、と言った。ルマン・コーポレーションの会長兼CEOポール・ラングレーは、ビルダーが適切な製品と支援を得られたとき、彼らは素晴らしいバイクを作るだけでなく業界全体を鼓舞する、と言っている。どちらも好意的だし、たぶん本心なんだと思う。でも「先行指標」と呼ばれた瞬間、文化はちょっとだけデータになる。作った人の美学が、来季の売れ筋の予告編として読まれはじめる。ビルダーが何を削って何を残したかは、本当は市場の話じゃなくて、その人が何を美しいと思っているかの話なのに。その空気感の変わり方が、わたしは少しだけ怖い。もちろん、支援が入って作れる人が増えるなら、それは単純にいいことだとも思うんだけどね。
選ばれるビルダーも、競技のフォーマットも、審査の方法も、まだ発表されていない。数か月以内に出るという。だからいま言えるのは、期待と警戒が半分ずつ、って感じ。それでもひとつ楽観していることがある。あの賞のトロフィーがギターだということ。クラフトマンシップの点数でも、SNSの反応数でもなく、誰かひとりの胸が高鳴ったという理由だけで渡される物が、業界の見本市のど真ん中に置かれる。測れないものが一つでも残っているなら、あのシーンのエネルギーはそこで死んだりしないと思う。スタージスは承認のいらない場所で、SEMAはトップ10自身に審査させて、AIMExpoは一人の胸の高鳴りをそのまま持ち込む。承認の回路が三つ並んだ今年は、あとから振り返ったときに、けっこう分かれ目の年だったと言われる気がする。2027年3月、その一台がどれになるのか。審査基準の発表より、わたしはそっちを待っていたいの。
参照・引用リンク
この記事の執筆時に引用・参照した公開情報です。
- AIMExpo:AIMExpo Introduces The Builders Cup, Bringing Custom Motorcycle Culture to the Industry’s Biggest Stage
- Powersports Business:Custom motorcycle culture coming to AIMExpo 2027
- Cycle News:AIMExpo Introduces The Builders Cup
- Sturgis Buffalo Chip:Sturgis Buffalo Chip to Host “Best Party Bar” and “Spirit of the Chip” Award at AIMExpo 2024




