EVは買いか 第4回:バッテリーを買わない、という買い方
ガチャコが7月、初期費用ゼロ・月2530円のバッテリーレンタルを全国へ広げた。ハノイは50基から1000基へ。電動二輪の値段は、車体ではなくバッテリーを所有するかどうかで決まり始めている。
この記事の注目ポイント
- ガチャコは2026年7月5日、バッテリーレンタル「ベーシックプラン」を全国展開した。ホンダ製モバイルパワーパック e: が月2530円(税込)、充電器が月1430円、初期費用ゼロ。交換ステーションのない地域でもバッテリーだけを借りられる。
- バッテリーと充電器を1組借りると月3960円、5年で約24万円。年に数百キロしか走らない人には割高だが、5年で二度パックを買い替える使い方なら賃借が総額で下回る可能性がある。損益分岐は走行距離と保有年数で反転する。
- ハノイでは市当局・LGエネルギーソリューション・ホンダが2026年第3四半期に交換ステーション50基と電動二輪約500台を投入し、2027年第3四半期以降に市内1000基へ拡大する。交換式は密度が成立条件の事業である。
前回は補助金の話をした。上限48万円という数字が、電動二輪をちっとも安くしていないという話だ。補助金は買う瞬間の値札しか動かさない。所有している間に出ていく金には、原則として触れない。ところがこの7月、その「所有している間」のほうに動きがあった。ガチャコが7月5日、バッテリーレンタルの「ベーシックプラン」を全国へ広げている。ホンダ製のモバイルパワーパック e: が月2530円(税込)、専用充電器が月1430円。初期費用はゼロで、契約時の送料も事業者が持つ。これまで対応エリアは東京・埼玉・大阪に限られていた。交換ステーションが一基もない県に住んでいても、バッテリーだけを借りられるようになった、というのが変更点である。
感情ではなく数字で見よう。バッテリーと充電器を1組ずつ借りると月3960円、年に47520円だ。3年で約14万円、5年なら約24万円になる。これを反射的に「高い」と切り捨てるのは早いと考えている。バッテリーの観点では、電動二輪でいちばん高く、いちばん確実に劣化する部品はバッテリーだ。買えばその劣化リスクを最後まで自分で抱える。借りれば、劣化は貸し手側の問題になる。ガチャコがベーシックプランと同時に、1万円(税込・送料込)でSOH95%以上の個体へ交換する「リフレッシュ交換サービス」を用意したのは、その不安をそのまま商品にしたということだろう。ただし、所有と賃借のどちらが得かは走行距離と保有年数で簡単に反転する。年に数百キロしか走らない人が月3960円を払い続ける合理性は薄い。逆に毎日使い、5年のあいだに二度バッテリーを買い替えるような使い方なら、借りたほうが総額で下回る可能性は十分にある。ここは平均値では答えが出ず、各自の使用実態で計算するしかない領域だ。もう一点、見落とされやすいのが充電器のほうだ。月1430円という数字は、自宅にコンセントがある人には一見して無駄に見える。だが交換ステーションに通わない運用を選ぶなら充電器は必需品であり、バッテリーだけでは完結しない。つまりベーシックプランは「ステーションの代わりに自宅を使う」設計であり、交換の速さではなく劣化リスクの移転だけを買うプランだと整理できる。ここを混同すると、期待した30秒は手に入らない。そのうえで契約は月額で切れる。ローンでバッテリーごと買う場合と違い、乗らなくなった月にやめられるのは、金額に表れない価値だと考えている。
海外に目を移すと、交換式が何の事業なのかがよく分かる。ハノイでは市当局とLGエネルギーソリューション、ホンダの三者が覚書を結び、2026年第3四半期に市中心部のホアンキエム周辺へ交換ステーション50基と電動二輪およそ500台を投入する。その評価を経て、2027年第3四半期以降に市内1000基へ広げる計画だ。LGは2170円筒形セルを供給し、安全管理と交換所の運営を担う。背景にあるのはリング1内側の低排出ゾーンで、市内にはおよそ800万台の車両がある。台湾のゴゴロも2026年に約10億台湾ドル(約3200万米ドル)を投じ、100基超のステーション追加と第一世代バッテリーの退役を進める。技術的には、交換式は密度の事業だと言える。ステーションが薄い場所では、どれだけ安くても成立しない。ゴゴロが第一世代の退役を同時に進めるのも、密度の裏返しだ。網が大きくなるほど、状態の悪い個体が全体の体験を引き下げる。交換式は、そのネットワークで一番悪いバッテリーの品質が、そのままサービス品質になる事業でもある。だからガチャコが「ステーションのない地域へ宅配で貸す」方向に舵を切ったのは、密度を諦めた撤退ではなく、密度が届くまでの橋渡しだと私は読んでいる。
「EVは買いか」という問いに対する今回の私の答えは、はっきりしている。車体は買っていい。バッテリーは、買わなくていい。判断の軸は三つだ。ひとつ、月4000円弱の固定費を家計として許容できるか。ふたつ、年間の走行距離がその固定費を正当化するほどあるか。みっつ、生活圏に交換ステーションがあるか、ないなら宅配レンタルで足りるか。この三つに自分の数字を入れれば、電動が買いかどうかはだいたい決まる。逆に言えば、そこを計算せずに「電動はまだ早い」と言うのも、「もう内燃機関は終わりだ」と言うのも、どちらも雰囲気の話でしかない。数字は、それぞれの家の駐輪場ごとに違う答えを出すのが確かなところだ。次回は同じ固定費のもう一方の当事者——電気そのものの値段を、家庭充電と交換式で並べて見るつもりだ。
参照・引用リンク
この記事の執筆時に引用・参照した公開情報です。





