日本ワインディング紀行COLUMN — 2026.08.14
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日本ワインディング紀行 第4回:九月十八日に開く峠——天生峠、片側だけの夏

SIGNATURE COLUMN — 日本ワインディング紀行BY YUKUTO ODA2026.08.14
日本ワインディング紀行 第4回:九月十八日に開く峠——天生峠、片側だけの夏
PHOTOMOTOBOOK編集部↗ 原文を見る

標高1,289メートルの国道360号・天生峠は、飛騨市側が7月3日に開通し、白川村側は9月18日解除の予定。大雪で1年以上閉じていた峠と、片側だけ開いた道をどう走るかの話です。

この記事の注目ポイント

  • 国道360号・天生峠は飛騨市河合町側の8.2キロが2026年7月3日に通行止め解除。白川村荻町側の12.2キロは9月18日解除予定で、いまは片側だけが開いている。
  • 閉鎖の原因は大雪による法面崩壊とガードレール破損で、全長20.4キロが歩行者・自転車も含めて全面通行止めのまま、令和7年度いっぱい復旧作業が続いた。
  • 標高1,289メートル、白川郷側からの標高差は約800メートル。長さ8メートル超の大型車は通行不可で、例年でも11月半ばから5月末までは冬季閉鎖となる。

前回は締切の話を書きました。ETC二輪車限定のツーリングプランは十一月三十日まで、北海道は十月三十一日まで。終わる日付ばかりを数えていたわけです。ただ、地図を広げていると、始まる日付というのもあるんですよね。今年の僕にとって、それは九月十八日です。岐阜県の国道360号、天生峠(あもうとうげ)。飛騨市の告知によれば、白川村の荻町から峠までの12.2キロが、この日に通行止め解除の予定になっています。飛騨市河合町側の8.2キロは、七月三日にもう開きました。つまりこの峠は、いま片側だけが開いている状態なんですよ。地図の上では一本につながっているのに、実際には途中で行き止まりになる。こういう道の状態を、僕は年に何度か見ます。そして毎回、走る前に知っておいてよかった、と思うんですよ。

天生峠は標高1,289メートル。飛騨市と大野郡白川村の境にあって、神通川の流域から庄川の流域へ抜ける道です。白川郷側からの標高差はおよそ800メートル。長さ8メートルを超える大型車は通れません。狭い道幅と、高度を稼ぐための急坂・急カーブが延々と続く、いわゆる「酷道」として名前を知られている一本ですね。例年でも十一月半ばから五月末までは冬季閉鎖で、白川村役場の案内では、開通しているのは六月上旬から十一月上旬まで。地盤が弱く、雪のない季節でも崖崩れで止まることが多い道でもあります。今回これほど長く閉じていた理由は、大雪でした。法面が崩れ、ガードレールが壊れ、二〇二五年六月には「令和七年度は復旧作業のため解除しない」と告知されています。飛騨市河合町天生から白川村荻町までの20.4キロが、歩行者と自転車も含めて丸ごと通行止め。もともとは令和七年の五月下旬に解除する予定だったものが、被害の大きさで見通しごと組み直された形ですね。一年以上、誰も通らない国道だったわけです。峠の道というのは、こうして時々、地図の上でだけ生きている期間があるんですよ。

片側だけ開いている道の扱いは、少し考えないといけません。飛騨市側から上がっても、峠から白川村へ抜けることはできない。抜ける道として当てにすると、ゲートの前で引き返すことになります。僕の提案はふたつです。ひとつは、九月十七日までなら飛騨市側を往復の道として味わうこと。抜けられないと分かっていれば、同じ道を二度走ることが不思議と損に思えなくなる。行きで見落とした沢の音が、帰りにちゃんと聞こえたりするんですよ。もうひとつは、解除後に白川郷側から入ること。峠の駐車場からは天生湿原や籾糠山への登山道が延びていて、ブナの原生林と、ミズバショウの育つ高層湿原は二〇一一年に「岐阜の宝もの」に認定されています。白川村側から入るのが、本来の入口なんですよね。ただし九月十八日はあくまで「予定」です。地図アプリは通れる前提で経路を引いてしまうことがありますから、出発前に岐阜県の道路規制情報と、飛騨市・白川村の告知を見る。この確認だけは、面倒でもやったほうがいいと思います。片側だけ開いた道を前にすると、ゲートまで行って引き返す人と、通れないと知って最初から別の峠を選ぶ人に分かれます。僕はどちらでもいいと思っているんですよ。大事なのは、知らないまま行って落胆することではなく、知ったうえで決めること。旅の満足度は、実はその一点でずいぶん変わるんですよね。

仮に九月十八日に開いたとして、そこから例年の冬季閉鎖まではひと月半ほどしかありません。ブナが色づき始めて、そのまま雪の季節に入っていく。走れる期間が短い道は、その年の記憶が濃く残ります。いつでも行ける道の記憶は少しずつ溶けていくのに、一年に数週間しか開かない道は、走った日の空の色まで覚えているものなんですよ。第1回に書いた志賀坂峠は「その土地の必然として存在する道」でしたが、天生峠もまた、観光のために引かれた線ではありません。飛騨と白川郷という二つの谷を結ぶために、人が山を越えていた線が、そのまま国道になっている。だから復旧に一年以上かかると聞いても、僕は不思議に思わないんです。復旧の工事をしている方たちは、僕らが走るために直しているわけではなくて、この道の先で暮らしと自然公園を支えるために直している。その順番は間違えないようにしたい。そのうえで、開いたという便りを待ちながら地図に指を置いて、次はどこを走ろうかと考える時間が、僕はやっぱり好きなんです。

参照・引用リンク

この記事の執筆時に引用・参照した公開情報です。

  1. 飛騨市:国道360号(天生峠)の通行止め解除の見通し(2026年5月27日更新)
  2. 飛騨市観光公式サイト:国道360号(天生峠)の通行止め期間延長について
  3. 白川村役場:天生峠(国道360号)/天生県立自然公園
  4. 岐阜県:道の情報ー道路規制情報
  5. Wikipedia:天生峠(標高・水系・道路状況)
小田 邑久斗
ツーリング・エディター
小田 邑久斗
道の駅でコーヒーを飲みながら地図を広げるのが、私の一番好きな瞬間だ。次にどこを走るか考えているとき、頭の中に次の記事のことが浮かぶ。日本中のワインディングを走ってきた経験が全部記事になっている。ツーリング情報なら任せてほしい。
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