スクリーンの二輪COLUMN — 2026.08.19
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スクリーンの二輪 第4回:手綱を引けば止まる——カワサキの四脚ロボットが特許に書いた比喩

SIGNATURE COLUMN — スクリーンの二輪BY TOSHIO ARAKI2026.08.19
スクリーンの二輪 第4回:手綱を引けば止まる——カワサキの四脚ロボットが特許に書いた比喩
PHOTOMOTOBOOK編集部↗ 原文を見る

カワサキの四脚ロボット「Corleo」の特許が公開された。IMU入りウェア、手綱のように引けば止まる制御。映画が百年借りてきた「鉄の馬」という比喩が、仕様書に戻ってきた。

この記事の注目ポイント

  • カワサキが2026年初頭に出願した四脚ロボット「Corleo」の特許が2026年8月に公開され、乗り手がIMU(慣性計測装置)入りの専用ウェアを着て重心と上体の傾きを機体に伝える構想が示された。
  • 特許にはグリップを離すか手前に引くと自動で減速・停止する制御と、荒地用の「wasteland(荒地)モード」が記載される一方、最高速度・航続距離・悪天候での限界は書かれていない。
  • Corleoは2025年4月の大阪・関西万博で公開された乗車型の四脚機で、150ccの水素エンジンで発電して脚のモーターを駆動し、左右に割れたゴム製の蹄で不整地に接地する。
  • カワサキは2027年にライディングシミュレータ完成、2030年のリヤド万博で来場者向け運用、2035年の市販というスケジュールを掲げている。

あのシーンを初めて見たときのことを、私はまだ覚えている。『AKIRA』(1988年・大友克洋)の冒頭で、金田の赤いバイクが光の尾を引いて横に流れていく数秒だ。当時の私は原付にすら乗っていなかった。バイクを知る前に、バイクを愛していたんだ。そして何度見返しても思うのは、あの赤いバイクが一度も「機械」として描かれていないことだ。金田は乗りこなしていない。振り落とされそうになりながら、力ずくで押さえ込んでいる。さらに遡れば、高校2年の夜に父の本棚から抜き出して朝まで読み切った少年漫画も同じだった。あの時代のバイク漫画で、主人公と車体はいつも取っ組み合っていた。乗り手が完全に支配しきれない、こちらの言うことを半分しか聞かない相手として描かれていたのだ。スクリーンの中でも紙の上でも、バイクは長いあいだ獣だった。

その比喩が、2026年8月に特許公報という形で現実の書類になった。カワサキの四脚ロボット「Corleo」だ。2025年4月、大阪・関西万博のカワサキ館で公開されたのを覚えている人も多いだろう。滑りにくいゴムの蹄が左右に割れていて、草地でも砂利でも岩でも接地の形を変える。脚には衝撃を吸収するスイングアームが付き、150ccの水素エンジンが発電して脚のモーターを回す。乗り手はハンドルとあぶみに仕込まれたセンサー越しに、体重の移動で指示を出す。断っておくが、私は最新メカの技術詳細は専門外だ。この機構が工学的に妥当かどうかを判定する資格は、私にはない。水素をどう積むのが安全かも、四本の脚がどれだけの荷重に耐えるのかも、専門の方に譲る。私が読めるのは、この乗り物が「何に似せて作られたか」だけである。

だが、その特許の中身を米RideApartが図面付きで報じたのを読んで、引っかかったのは数字ではなかった。特許には、乗り手がIMU(慣性計測装置)を仕込んだ専用のウェアを着る構想が書かれているという。上体がどちらに傾いているか、重心がどう動いたか、それを衣服が読み取る。さらに——グリップから手を離すか、手前に引くと、機体は自動的に速度を落として止まる。手綱だ。技術文書の中に、手綱の作法がそのまま制御仕様として書き込まれている。荒地を走るための「wasteland(荒地)モード」という名前まで出てくるという。その一方で、最高速度も航続距離も、悪天候での限界も書かれていない。ここからは事実の紹介ではなく私の読みだが、これは性能を決める前に「どう乗るか」を決めてしまった設計図なのだと思う。そんな順番で書かれた乗り物を、私は寡聞にして知らない。

映画はこれを百年近くやってきた。『乱暴者』(1953年)でマーロン・ブランドが革ジャンのまま町に乗り込んだ姿は、西部劇の馬をバイクに置き換えた図として繰り返し論じられてきたし、『イージー★ライダー』(1969年)の二台のチョッパーも、カウボーイが鉄の馬に乗り換えた姿として読まれてきた。ただし、それはずっと比喩だった。跨って、脚のあいだに力を挟み込んで、言うことを聞かせる——その感触を、映画は馬から借りてバイクに貼り付けていたにすぎない。だからこそ効いていた、とも言える。観客は馬の乗り方を知らなくても、あの構図が「馴らす話」だと一目で分かった。バイクが荒野を走れば西部劇になり、隊列を組んで町に入れば無法者の帰還になる。撮る側は百年、その省略を使い回してきたのだ。カワサキは2027年にライディングシミュレータを完成させ、2030年のリヤド万博で来場者を乗せ、2035年に市販すると言っている。借り物だった比喩が、そろそろ返却されようとしているわけだ。私が気になるのはその先である。スクリーンの中でバイクが獣でいられたのは、乗り手が最後まで完全には支配できなかったからだ。手綱を引けば必ず止まる乗り物を、私たちは獣と呼ぶだろうか。それとも、たいへん行儀のいい機械と呼ぶのだろうか。答えはまだ出ない。実物に跨れるのは早くて2030年、買えるのは2035年だというのだから、判断は十年近く先延ばしにできる。ただ、映画は結論を待ってはくれない。乗り物が変われば、撮り方も変わる。四本の脚で岩場を登る乗り物が当たり前になった頃、監督たちは何を「馴らす話」として撮るのだろうか。私はまだ、金田が振り落とされそうになりながら押さえ込んでいた、あの数秒のほうを信じている。

参照・引用リンク

この記事の執筆時に引用・参照した公開情報です。

  1. RideApart:We Just Found Kawasaki's Robot Horse Patent Drawings. They're Full Of Insane Details
  2. New Atlas:Kawasaki's four-legged robot-horse vehicle is going into production
  3. designboom:kawasaki unveils CORLEO, a four-legged robot with hooves that walks, rides, and climbs
荒木 斗司夫
ポップカルチャー・エディター
荒木 斗司夫
高校2年の夜、父の本棚で『あいつとララバイ』を朝まで読み切ったときには、もう「いつかバイクに乗る」と誓っていた。バイクを知る前に、バイクを愛していたんだ。映画批評を10年書いて、31歳で大型免許を取って、初代NINJAで東名に乗った日、私はスクリーンの中のカネダになった。漫画・映画・MVの中で、バイクがどう時代の空気を背負ってきたか——それを読み解くのが私の仕事だ。
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